東京高等裁判所 昭和59年(く)205号 決定 1984年9月05日
少年 T・K(昭四二・九・一〇生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、申立人作成の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。
抗告趣意第一について
所論は、要するに、原審には原判示第一の窃盗の事実を認定するにあたつて審理を尽さなかつた違法がある、というのである。しかしながら、一件記録特に被害者A作成の被害届及び同人の司法警察員に対する供述調書並びに少年の司法警察員に対する供述調書によれば、Aが原判示窃盗の被害物件である空瓶及びその容器を自宅前路上において所有しかつ占有していたこと、更に少年において右物件が他人の所有及び占有下にあるものと認識していたことが明認できるところであるから、以上の証拠などによつて所論指摘の点を含め原判示窃盗の事実を認定した原審の措置には毫も審理不尽のかどは存しない。論旨は理由がない。
抗告趣意第二について
所論は、要するに原決定は原判示第一において少年が単独で空瓶二七本全部とその容器を窃取したと認定しているが、既に少年の所為の前にBが二七本あつた空瓶のうち二、三本を少年の意思とは関係なく盗んでおり、又、少年が空瓶二四本の入つたケースを運んだのは仲間中の先輩の指示によるものであり、少年自身は二本しか窃取しておらず、少年はせいぜい二四本につき共謀共同正犯の責を負うにすぎないから、原決定には決定に影響を及ぼす重大な事実の誤認がある、というのである。そこで一件記録を調査するに、少年、所論Bを含む数名の者が二台の車に分乗しいわゆる箱乗りをして疾走中、赤信号のために停車した際、道路脇のドライショップA方前路上にキリンレモンの空瓶二四本の入つた容器一箱とその上に三本位のプラッシーの空瓶が置いてあり、所論Bが車から降り空瓶を盗みに行つたこと、これを見るや少年は仲間の何人とも意思を通ずることなく、自分も空瓶を盗んで道路に投げつけるなどして気勢を上げたいと考え、車から降りBが三本位盗んだ残りの空瓶を容器ごと窃取したこと、そのあと後方車の先輩からこつちに持つて来いと言われたためこれを配つているうち、信号が青に変つたので少年は右のうちの二本だけを手に取り、容器と空瓶一八本を路上に放置して車に乗り現場を離れた事実が認められる。してみると、少年が単独で空瓶二七本を窃取したと認定した原決定は窃取本数を誤つたことになりこの点において事実を誤認したものといわざるをえないが、この誤りは未だ処分に影響を及ぼす重大な事実の誤認とは認められないから、結局所論は採用できない。論旨は理由がない。
抗告趣意第三について
所論は、原判示第二の器物損壊の事実についての事実誤認の主張であつて、要するに、原決定は、少年に犯意がないのにこれがあると誤つて認定したほか、犯行場所、被害車両の所有者についての認定を誤り、かつ、被害車両の特定にも欠けている、というのである。しかしながら、一件記録によれば、少年の仲間の一人が車を走行中検問にあたつていた警官に空瓶を投げつけ傷害を負わせて逃走中、信号待ちをしていたC運転の乗用車が少年らの車の通行を妨げたとして、箱乗りをしていた少年が空瓶一本をC車近くの路上に叩きつけ、更に、C車のボンネット辺りをめがけて一本投げつけ、これがまともに同車のボンネットの真中辺りに当つた事実が認められる。右の事実によれば、少年が器物損壊の犯意を有していたことが明らかである。又、原決定には被害車両の特定に欠けるところがないことも原判文に照して明白であり、更に、記録に徴すれば、犯行場所についても原決定には所論のような認定の誤りも存しない。もつとも、被害車両の所有者は所論のように有限会社○○自動車であることが記録上認められるところ、これをDと認定した原決定には誤りがあるといわざるをえないが、この誤りが決定に影響を及ぼす重大な事実誤認ということはできない。論旨は理由がない。
抗告趣意第四について
所論は、原決定には決定に影響を及ぼす処分の著しい不当がある、というのである。しかし、少年を中等少年院に収容する必要性があることについては、原決定が詳細適切に判示するとおりであつて、当裁判所もこれを相当として是認するところである。特に、少年が初等少年院を昭和五八年八月一五日仮退院した後、保護観察状況は同五九年五月頃まで良好で退院申請準備面接がなされていたが、改過遷善の実が完全には挙がらず同年六月二五日本件犯行を犯したものであること並びに本件に至る経緯、その非行の内容、態様、少年の基本的性格傾向に変化の生じていないことなどを考慮すると、少年の要保護性は高く、少年を再度少年院に収容してその健全な育成を図ることはやむをえないと思料されるから、所論指摘の事情を十分に考慮に容れても、未だ原決定には処分の著しい不当があるということはできない。論旨は理由がない。
よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項後段によりこれを棄却することとし、少年審判規則五〇条に則り主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 時國康夫 裁判官 礒邊衛 日比幹夫)
抗告申立書<省略>
〔原審〕(東京家 昭五九(少)一〇〇三九号 昭五九・七・二五決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は
第一 昭和五九年六月二五日午後一〇時五〇分ころ、杉並区○○×丁目××番×号前路上において、A所有のキリンレモンの容器及び同容器内の空瓶二七本(時価合計四七〇円相当)を窃取し
第二 同日午後一一時ころ、Bの運転する乗用自動車に乗車して進行中、杉並区○○×丁目××番××号において、信号待ちしていた普通乗用自動車のCに対し、道をあけるように合図したところ、同人がこれに従わなかつたことに憤慨し、同所において、同車両を追越す際、同車両に対し、所携の空瓶を投げつけ、同車両のボンネットを凹損させ(修理見積価格八二、六〇〇円相当)、もつてD所有の器物を損壊し
たものである。
(法令の適用)
第一の事実につき、刑法二三五条
第二の事実につき、同法二六一条
(処遇の理由)
1 本件は、初等少年院を仮退院中の少年が、かつての遊び仲間と、走行中の自動車にいわゆる箱乗りをして空瓶を路上に破裂させつつ進行するために犯した空瓶の窃盗(第一の事実)と、走行中に出会つた警察官の検問を無視して通過し、逃走中に犯した先行車に対する理由なき攻撃(第二の事実)であり、非行内容自体が悪質で、少年の非行性の高さ及び交友関係の劣悪さを認めるに足るものである。
2 少年は、牛乳販売を業とする両親健在の家庭に双生児として生れ、三歳年長の兄と三人兄弟で、父の厳格な指導の下に幼少期から牛乳配達を日課とされ、勉強もスポーツも良くしたが、父が飲酒と賭事を好み、夫婦仲が悪かつたなどの事情から、次第に父への反感を強め、中学校三年生の時学業が低下し、クラブ活動も止めたのを機に、遊びを求めるようになり、昭和五七年一〇月ころから家出を繰り返すようになり、不良仲間と深くかかわり、バイク盗、シンナー吸入の外、バイクを使用してのひつたくり事件を多発するなどの非行がつづき、現在までに、いずれも東京家庭裁判所において昭和五八年一月一九日窃盗、毒物及び劇物取締法違反により審判不開始、同年三月二九日毒物及び劇物取締法違反、窃盗、賍物収受により初等少年院送致の決定を受けているものである。
3 少年は、知的能力はやや高いものの(IQ一一一)、その生育歴に起因して、自我が弱く、規範意識が極めて薄く、自己顕示性が強く、集団内にあつては遊びと犯罪との区別もせずに行動にでて、社会的逸脱行動もとり易い。
4 少年の両親は、少年が仮退院中にもかかわらず、少年の夜遊びを制止できなかつたことで明らかなように、指導力が劣り、現在の少年を自力で更生に導くことは困難である。
5 以上、本件非行内容、少年の非行歴、保護の経過、生育過程により形成された性格、規範意識、交友関係に少年院を仮退院中であることなどを総合すると、少年に対する保護処分は、中等少年院送致をもつて相当とする。
よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項により、主文のとおり決定する。